BLOG

ブログ

子供に「よく噛んで食べる」ことを教える本当の意味

  • 2016/08/19
  • カテゴリー :
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

かの讃岐うどんで有名な香川県に行ったときに、「うどんは飲み物である」という格言(?)を聞いたことがあります。さすがに言い過ぎだとは思いますが、個人的にはちょっと共感してしまいました。だってうどんって1杯食べるのに3分もかかりませんよね?その通りと思う方はきっと私と同じ、早食いの人でしょう(笑)。

私自身、もともと早食いだと自覚してはいましたが、大学を卒業して医者として働くようになると、決まったランチタイムというものが基本的になく、時間ができたときにさっと食べなくてはいけなくなりました。非常に言い訳がましいですが(笑)、そのためさらに早食い癖に拍車がかかってしまったと思います。

しかし、「早食いはよくない、太る」というのが世の中の常識ですよね。医者の不養生と言われてしまうかもしれませんが、自分への反省を込めて、よく噛むことが医学的にどう影響するか、今回ご紹介したいと思います。

まず、最近発表された論文で こんな報告が。それは「一口につき30秒かけることによって食べ過ぎを防ぎ、肥満を抑制することができる」ということが児童を対象とした研究で明らかになったというものです。

よく噛むことがダイエットにいいことは以前より言われていますが、ゆっくり食べることによる体重の影響を児童を対象に調べた研究は意外にも今までになく、今回が初めてとのことです。

この研究は6歳から17歳の、特に肥満ではない児童54名を対象に、普通に食べさせた場合(コントロール群)と一口に30秒かけてゆっくり食べさせた場合(介入群)に分けて、その後の体重を比較した、という研究です。食事の量や内容については同じで、学校の教育の一環として昼食にこの研究を行ったようです。

結果としては半年後、コントロール群(普通) が4.4%から5.8%体重が増加した一方、介入群(ゆっくり)では2.0%から5.7%体重が減少し、さらに1年後ではコントロール群は8.3%から12.6%体重が増え、介入群では3.4%から4.8%体重が減ったとのことです。ちなみに対象は日本人ではなくヒスパニック系のアメリカ人です。また対象の平均年齢は12歳、成長期ということもあるので、成人に対して同じ実験を行って同じように反映するかは分かりません。しかしゆっくり食べる習慣が明らかにその後の体重に影響を与えると言えそうです。

しかし、与えられた一定量の食事を残さず食べるのであれば、結局摂取するカロリーは同じなのでは?と考える方もいると思います。確かに食事量が同じであれば摂取カロリーは同じです。しかしゆっくり食べる習慣は結果として余分な摂取カロリーを抑えることができるのです。

どういうことかと言うと、胃に食べ物が充満されてから脳にもう十分であることを知らせるシグナルが出るまでおよそ15分と言われています。そのためゆっくり食べることで胃に充満されてからもさらに食べてしまうことを防ぐことができるというわけです。実際に介入群(ゆっくり)では食事の間のスナックなどの間食を防ぐことができたようです。他の成人女性を対象とした研究では、ゆっくり食べた方が1食につき70kcal前後摂取カロリーが少ないにもかかわらず満腹レベルは高かった、という報告もあります。

そしてもうひとつは、血糖値との関係です。一度に食べ物を摂取すると急激に血糖値が上昇します。すると血糖値を下げるためにインスリンというホルモンが働き、エネルギーの源となるグルコースを細胞内に取り込もうとします。そして過剰なインスリン分泌は中性脂肪の分解を抑制し、肥満の原因になってしまいます。

またある報告では、早く食べた場合とゆっくり食べた場合での食事誘発性体熱産生(食事をする行為自体で発生するエネルギー)を比較すると、ゆっくり食べたほうがエネルギーをより多く消耗し、食後血糖がそのエネルギーに使われる可能性が指摘されています。

医学的なメカニズムからも、大人でもよく噛んでゆっくり食べることがいい、ということです。やっぱり今からでも早食いを直さなければ(笑)!

しかし今回の研究の一番のポイントは、子供の時期 にゆっくり食べることを習慣づけることで、大人になってからもその習慣を継続させ、さらに自分の子供にも伝えていくことができるという点だと思います。日本でも「最低30回は噛みなさい」と言われますね。30秒でも30回でも意味はほとんど同じだと思いますが、この論文が世に出た以上、お母さんは自信を持ってお子さんに「よく噛んで食べなさい」と言えますね。

最後に、「よく噛んで食べる」ことは一見簡単そうなことに思えますが、すでに早食いが癖になっている大人が直すのは想像以上に難しいです。やっぱり習慣づけって大事だと身をもって痛感しております。私は一口毎にお箸を置くことにしました。早食い癖、早く直せますように(笑)。

参考文献:

Salazar Vazquez BY, et al;Control of overweight and obesity in childhood through education in meal time habits. The ‘good manners for a healthy future’ program me: Pediatr Obes, 2015(10)1111

Andrade AM, et al; Eating slowly led to decreases in energy intake within meals in healthy women: J Am Diet Assoc,2008, 108(7):1186-91

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

こちらの記事も読まれています!

糖化と運動
運動が糖尿病のリスクを軽減することは広く知られています。同様に、運動が抗糖化対策になることもこれまでの報告で明らかになっております。実際に、同じ年齢のアスリートは、運動習慣のない人とCMLなどの老化物質AGEsの量が21 […]
糖化を抑える食事法
食べ物や調理法の次は、食事そのものをどのように工夫すると、糖化は抑えられるのでしょう。これまでの報告で分かっていることは次のようなことです。 野菜を先に食べる GI値の低いものを食べる(精製した炭水化物は控える) レモン […]
糖化と睡眠
日本人は海外と比較すると圧倒的に睡眠不足だと言われます。睡眠不足は身体にどう影響を及ぼすのでしょうか。 まず、統計学的に睡眠時間と相関しているのが分かっているのが肥満です。睡眠時間が短いと、肥満になる傾向があります。この […]
お酒は糖化にどう影響する?
ビール、ワイン、日本酒・・・ お酒の種類は様々ありますが、いずれもアルコールです。実はアルコールこそが糖化ストレスの引き金となります。アルコールは化学構造式的に「アルデヒド基」を含みます。糖化の犯人は、この「アルデヒド基 […]
アンチエイジングな調理法
糖化対策のひとつに、おすすめの調理方法があります。それは「低温調理法」です。 低温調理とは、一言で言うと、お肉などのタンパク質が変性しない低い温度(40〜65℃くらい)で調理すること。通常茹でたり焼いたりするとタンパク質 […]
糖化と肌の関係
皮膚における糖化ダメージは、見た目が老化に大きく関連してきます。具体的には「しわ」「たるみ」「ごわつき」「くすみ」「シミ」といったエイジングサインを促してしまうのです。   このことを少し詳しく説明したいと思い […]