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ニキビ痕は化粧品では治りません 前編

  • 2019/12/09
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前回反響が大きかったニキビについてのブログ。その後、DMなどでニキビ痕についても知りたいという声をいくつかいただきました。

ニキビ治療が急速に進化したのはここ数年の話なので、それまで慢性的にずっとニキビに悩んできたという人は大なり小なりニキビ痕として残っていると言っても過言ではありません。そして、ニキビ痕の治療は現代の医学を以ってしても難しいのが現状です。今回はニキビ痕の治療について、基本的なところを説明したいと思います。

そもそもニキビ痕とは?

まず、ニキビ痕の「痕」とは、医学的に「瘢痕」のことを言います。そのため、よく「ニキビ跡」と書かれることがありますが本来は「ニキビ痕」が正解です。瘢痕とは具体的にどういう状態かと、その定義を日本病理学会のHPから引用すると

「創傷治癒の過程で肉芽組織を生じ、線維化が進んだ状態。表層は附属器を欠如する上皮が覆っている。線維芽細胞の増殖と膠原線維の増生がある。」とされます。

んん?難しいですね笑

簡単に言うとニキビ痕は「戦争が終わった焼け野原」の状態です。一番重要なのが、ニキビ痕は治る過程で「線維組織」と「新生血管」という以前の皮膚とは異なる組織に置き換わってしまうということです。ここでいう線維組織とは通常のコラーゲンなどの組織とは異なり不規則に増生、配列するため、瘢痕部分の皮膚は硬くなります。

では、ニキビができると必ず痕になるかというと、そんなことはありません。例えば軽いやけどやすり傷のような場合は、基本的に傷は表皮〜真皮浅層までと比較的浅いため、痕に残ることは少なく、殆ど目立たなくなります。

炎症が最初表層だけであっても、時間が経つと深くまで波及し、先ほどの線維化、つまり「焼け野原」へと発展してしまいます。事実、平均33日でニキビ痕に発展してしまうという報告もあります。

そのため、軽度のニキビを早い時点で治療できていれば痕にはなるリスクは低いのですが、無治療のままでいたり間違えたケアをしていると炎症がより深い層にまで広がり、ニキビ痕になってしまいます。

では、どうしたらニキビ痕は改善するのか

ニキビ痕を改善したいのであれば、この焼け野原をどうにかしなくてはいけません。ターゲットは真皮層。つまり、表皮をターゲットとする化粧品だけで治すのは無理なのです。さらに真皮層をターゲットにするにしても新しい皮膚を形成する、言い換えると組織を再生(resurfacing)する治療でなくてはいけません。そういった治療はいずれも保険外治療となります。そして、どの治療も一度で十分な効果を発揮するものではありません。なので繰り返しますが、ニキビ治療は軽度なうちに完治してしまうのが一番いいのです。

さて、次に具体的なニキビ痕の治療法について説明したいと思います。

まず、通常のニキビ治療薬はニキビ痕に効果があるかどうか。結論から言うと、ものによっては多少の効果は期待できますが、日本での承認薬では正直厳しいです。というのは、論文でよくニキビ痕が改善したと報告されているのは過酸化ベンゾイル2.5%とアダパレン0.3%の合剤なのですが、日本で全く同じ処方のものはないためです。エピデュオ(過酸化ベンゾイル2.5%とアダパレン0.1%)が似てはいるのですが、論文によるとニキビ痕の数は変化せず、ニキビが痕になるリスクを減らす程度だったようです。他の論文で、アダパレン0.3%ではニキビ痕がある程度改善を認めたというものもあるので効く効かないの差にはアダパレンの濃度が重要である可能性があります。

アダパレン0.3%が日本でも処方できれば、ニキビ治療の幅がかなり広がるのになぁと個人的には思うのですが、現状アダパレン0.1%(一般名ディフェリン)しかないため、保険治療薬はあくまでニキビ痕予防に留まると思います。実際ディフェリンを処方した患者さんでニキビ痕に著効した!という人、確かにいませんし…

そのため、日本でニキビ痕の治療をしようと思うと基本的に保険外治療が適応となってきます。保険外治療については書こうと思ったら長くなってしまいそうだったので、次回ご紹介したいと思います。

 

参考文献:

・Tan J et al. Prospective study of pathogenesis of atrophic acne scars and role of macular erythema. J Drugs Dermatol. 2017;16(6):566-72

・Loss MJ, et al. Adapalene 0.3% Gel Shows Efficacy for the Treatment of Atrophic Acne Scars. Deamatol There(Heidelb). 2018; 8(2):245-257

・Dreno B et al. Adapalene 0.1%/benzoyl peroxide 2.5% gel reduces the risk of atrophic scar formation in moderate inflammatory acne: A split-face randomized controlled trial. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2017;31(4):737-42.

・Dreno B et al. Prevention and reduction of atrophic acne scars with adapalene 0.3%/benzoyl peroxide 2.5% gel in subjects with moderate or severe facial acne: Results of a 6-month randomized, vehicle-controlled trial using intra-individual comparison. Am J Clin Dermatol. 2018;19(2):275-86.

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