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皮膚科医が考えるまつげ美容液の選び方

  • 2020/07/13
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最近、よく「巷にあるまつげ美容液、何を選んだらいいか分かりません!」という質問を受けます。確かに口コミも様々だしそもそも必ず使うべきアイテムなのかも分からない、という人も多いのではないでしょうか。今回は「まつげの育毛」をテーマに考えてみたいと思います。

 

まず、まつげって一体何本くらいあるのか、ご存知でしょうか。一般的に、上まつげが90〜160本、下まつげが75〜80本程度と言われています。特に上まつげは個人差が大きいですね。そしてまつげは1日で0.12〜0.14mm程度伸びます。髪の毛が1日約0.3mm程度なので、まつげの方が伸びる速度はゆっくりですが、髪の毛と同じで毛周期によって常に生え変わります。

 

まつげには、ご存知の通りゴミなど外界の刺激から目を保護するという大切な機能があるのですが、正直あまり研究されていない分野です。美容に関する研究なんぞさらに少ないのですが、抗がん剤などでまつげが抜けてしまうなど、まつげがなくて困っている人も実際多くいます。

 

そんな中、まつげの育毛にFDAより唯一認められた成分というのがプラスタグランジンアナログの「ビマトプロスト」です。0.03%のビマトプロストは、これまでにいくつもの論文でその有効性が認められています(ちなみに眉毛にも有効です)。抗がん剤でまつげが抜けてしまう状態を「 睫毛貧毛症」といいますが、国内では自費治療にはなりますが「グラッシュビスタ」という0.03%ビマトプロストが唯一、厚生労働省によって製造販売が承認されています。

 

結論から言うと、本気でまつげを長く、太く、濃くしたければこのビマトプロスト一択です。グラッシュビスタ以外では他にアラガンのラティスやルミガンが0.03%ビマトプロストに該当します(下の写真はビマトプロスト(ルミガン後発品)と専用のアプリケーターです)。

 

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ただし、ここが今回一番言いたいことなのですが、これは化粧品ではありません「医薬品」なんです(今回は分かりやすくまつげ美容液で一括りにしてますが、実際は美容液ではないということです)。つまり医師の処方が必要となります。

 

医薬品と化粧品ではその役割が異なります。医薬品はその毒をもって治すもの、つまり副作用が必ずつきまといます

 

具体的には
・色素沈着(比較的高頻度で起こるため、専用のアプリケーターが必要)
・かゆみ、痛みなどの刺激症状
・虹彩の色の変化やまぶたの下垂(非常に稀、日本人における報告はこれまでなし)
・妊娠中は使用を控える(マウスの実験において早産などのリスクあり)
・使用してから効果が出るまでには1ヶ月ほどかかる
・使用をやめればまた戻る
・そもそも生えるべき毛包がなければ効果は認められない

 

これらの注意点を本人が十分理解し、かつ医師が問題ないと判断して初めて使えるものなのです。

一方、化粧品は医師の処方なしに誰でも気軽に使えます。これは裏返すとその分、効果もマイルドだということです。

 

それにも関わらず、一部のまつげ美容液(海外製が多い)は、ビマトプロストと類似したプロスタグランジン系成分が配合されているものがあります(大体「なんとかプロスタ〜」、「なんとかプロステ〜」というものです)。

 

実際、これらの商品を使ってまつげが伸びたという口コミも多く見かけます。これは、厳密に言うと化粧品の範疇を超えている可能性が非常に高いです。実際アメリカでは、プロスタグランジン系の合成類似体一つであるイソプロピルクロプロステネート(こちらも医薬品に使われる成分)が配合されたまつげ美容液の発売元がFDAから勧告を受け、裁判沙汰にも発展しています。ちなみにカナダでは、すでにこれらの成分を配合した化粧品の販売は禁止されています。

 

化粧品なのに医薬品と同じような効果があるなんてラッキーと思うかもしれませんが、例えばイソプロピルクロプロステネートが果たしてビマトプロストと同じ効果なのか?副作用についてはどうなのか?などは不明です。なぜなら化粧品なのでそのあたりの試験は義務ではないからです。

 

それだったらきちんとエビデンスもあるビマトプロストを使った方が確実だし安全だと思います。何かあればその医師にも責任が発生しますし、承認品であるグラッシュビスタの場合は発生した副作用などの健康被害は医薬品副作用被害救済制度という公的な制度や、製造物責任法の対象となり、救済給付を受けることのできる体制もあります。それでもプロスタグランジン系合成類似体が配合された「グレーな化粧品」であるまつげ美容液を使いたければそれはもう自己責任で、という話になります。実際そのような化粧品の場合色素沈着などの副作用が認められるケースがあります。

 

色々と脅してしまいましたが、真っ当な化粧品としてのまつげ美容液ももちろんあります。資生堂など国内メーカーのものはまずプロスタグランジン系成分が配合されておらず、化粧品として使用するのに問題ないと思います。

 

それでは次に、そのようなまつげ美容液にはどんな効果が期待できるのでしょうか。
よく配合されている有効成分としては
・ペプチド
・植物抽出成分
・ビタミン類
・ヒアルロン酸など保湿成分
などが挙げられます。
何度も言うようにこれらは化粧品なのでビマトプロストのような効果はまずありません(断言)。

 

ではやる意味ないかというと、そんなことはありません。まつげも皮膚や髪の毛と同様、紫外線や外気のダメージを受けます。髪の毛にヘアトリートメントをするのと同様、健やかなまつげの状態を維持するために保湿などはとても大切です。実際そういったケアをするとしないではまつげが切れやすさなどだいぶ変わってきますし、伸びたと感じる人もいます。

 

なので、もしビマトプロストの医薬品ゆえの様々な注意点がひっかかるという人や過去にビマトプロストで副作用を認めたことがある人は、こういった「化粧品」のまつげ美容液がいいと思います。その中でどれが一番いいかは、正直他のスキンケア・ヘアケア商品同様、その人のまつげの状態によります。使い勝手が良かったり、実際使ってみて調子いいな、と感じるアイテムを使うのが一番だと思います。

 

怪しいまつげ美容液はSNSでもよく見かけます。正しい知識をもって「まつ育」を行っていきましょう。

 

参考文献

・AL Dabagh BWoodward J. et al. Eyelash-Enhancing Products; A Review. Cosmetic Dermatology. 2012.25(3)

・Smith S.et al. Eyelash growth in subjects treated with bimatoprost: a multicenter, randomized, double-masked, vehicle-controlled, parallel-group study. J Am Acad Dermatol. 2012;66:801–806

・Fagien S. Management of hypotrichosis of the eyelashes: focus on bimatoprost. Clin Cosmet Investig Dermatol. 2010;3:39–48.

 

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