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今に始まったことではありませんが、インターネットやSNSなどで怪しい美容情報を見かけることが多々あります。「ほうれい線が消える」「1日でシミが消える!」など、魅力的な言葉で消費者を誘惑しているのですが、中でも私が気になるのはニキビケアについてのもの。
なぜならニキビの場合、ケアを間違えるといわゆる「ニキビ痕」として残ってしまう可能性があるからです。
ニキビは、ざっくり分けると初期段階の「白ニキビ・黒ニキビ」から炎症を持った「赤ニキビ」に発展し、その状態が続くと膿を持った「黄ニキビ」、さらに続くと「色素沈着」「瘢痕」というステップを踏みます。ニキビ痕は色素沈着や瘢痕のことで、一度できてしまうと残念ながらなかなか消えません。保険外治療でフラクショナルレーザーなどの選択肢はありますが、かなりの値段と手間がかかります。つまり、ニキビ痕にならないことがニキビ治療の最大のポイントなのです。
実際、ニキビで悩んでいる人はとても多いと思います。ここでは睡眠や食事といった生活習慣ではなく、ニキビケアのみに焦点を当てて正しいケアについての情報を共有していきたいと思います。ポイントは3つです。
1、皮膚科でのニキビ治療はここ数年でかなり進化した
ひと昔前までは、皮膚科でニキビ治療となると抗生剤の外用(ダラシンなど)が中心でした。抗生剤はむやみに服用を続けると耐性といって効かなくなってくることがあります。ニキビにおいても耐性菌は問題となり、「せっかく皮膚科で薬をもらってもよくならない」というイメージを抱く方も多くなってしまいました。
しかし、ここ数年で保険治療で可能なニキビ治療薬がかなり増えました。代表的なものが過酸化ベンゾイル(べピオ)です。この過酸化ベンゾイルは抗生剤ではありませんがニキビ菌に対する殺菌作用をもち、さらに毛穴の詰まりを改善することでニキビを改善します。抗生剤ではないので耐性になりません。そのため継続して使え、ニキビが長期化して痕になるのを予防することが期待できます。過酸化ベンゾイルと抗生剤、過酸化ベンゾイルとアダパレンなど組みわせることによって治療効果は高まるため、治療法の選択肢も増えて、より患者さんの症状に細かくカスタマイズすることも可能になりました。
2、ニキビにはガイドラインがある
twitterでもこのことは散々ツイートしているのですが、ガイドラインというのはこれまで論文などで報告されたエビデンスの結晶です。言うなれば「トップオブエビデンス」。日本のニキビのガイドラインは2017 年に大きく改定され、ニキビを3ヶ月までの急性炎症期、それ以降の維持期といった経過と、炎症性ニキビの数によって重症度に分けた治療アルゴリズムへとガラリと変わりました(それまでは見た目に応じた治療法でした)。新しいガイドラインは一般にも公開されているので誰でも見ることができます(こちら)。なので、SNSなどで聞いたことないような治療法を耳にした場合は、まず一度ガイドラインを確認することをおすすめします。
皮膚科医は、基本的にまずはこのガイドラインに沿った治療をします。そのため医者によって治療が大きく異なることもまずありません。つまり、エビデンスに沿った治療を誰でも同じように受けることができるため、医者によって効く、効かないといった差ができにくく、さらに新しいニキビ治療薬とガイドラインによって、ニキビ治療の成績は上がっているのです。
3、市販のニキビケアでできることは限界がある
そして最後に、これが一番誤解の多いことですが、日本の場合、薬機法の関係もあり処方薬のようなアグレッシブなニキビケアができる市販の商品はありません。反対に、アメリカでは過酸化ベンゾイルやサリチル酸など日本では医薬品にしか配合されない商品を誰でもドラッグストアなどで購入することができます。その背景としては、アメリカでは皮膚科を受診する患者でニキビによるものが最も多いことや、保険料が高いことが関係していると思います。ただ、日本ではそのような商品は現状ないのです。
それにも関わらず、SNSなどで市販のニキビケアが「ニキビが治る、撲滅できる」といった過度な謳い文句で紹介されるケースが少なくありません。こういった商品が全く意味がないとは思いません。軽度なニキビの場合などで改善するケースももちろんあるでしょう。ニキビパッチも、炎症が治まった後に触ったり枕などすれたりするのを防ぐ意味で使うならアリだと思います。ただ、せっかく適切な治療でニキビ痕が予防できる時代になったのに、「ニキビがよくなる」という情報だけでむやみやたらに使ってさらにニキビが悪化し、急性期を過ぎてから医療機関を訪れる人も多いというのが現状なのです。
もちろん、ニキビにスキンケアはとても大切です。
・泡立てた石鹸で優しく洗顔する(1日2回)
・きちんとすすぐ。特にフェイスラインは洗い残しに注意する
・タオルでゴシゴシ拭かない
・ノンコメドジェニックのものや低刺激の商品を使う
・自分でニキビを潰さない
これらのケアを行った上でガイドラインに沿った適切な治療を行うことを日本及びアメリカ皮膚科学会では推奨しています。ちなみに、海外の商品を個人輸入して使っている人もいると思いますが、こちらも自己判断で使う以上、特に炎症性のニキビの場合は経過に気をつけて、少しでも悪化する場合はすぐに皮膚科を受診するように心がけてください。
今後SNSなどの過度な謳い文句に踊らされることなく、正しいニキビケアで少しでもニキビ痕で悩む人が減るといいなぁと思います。